ルソン・テクノロジーの前にまず樫田がマニラで所属する事業会社に挨拶に行こうということなので、空港から1時間車に揺られた。見る景色、見る景色全てが木島には新鮮だった。道を歩くフィリピンの女性のほとんどが若く可愛い。大学時代の合コンでは「北九州のテラピア(*)」と恐れられたと木島にとっては全てがアフリカの草原にいる小動物のように見えた。

スズキ目カワスズメ科に属す魚の一部を指すものとして確立された和名である。雑食性。貪欲で、口に入る動植物を生死問わず食べる(Wikipediaより)

舌なめずりをしながら食い入るように.窓の外を見ていると、樫田に突然声をかけられた。

「お前、入江さん 喰おうとしてるだろ」

車で手渡されたコーヒーを思わず吹き出しそうになったが、続けて樫田はこういった。

「筋が悪いな」

噂ということだったが、入江には既に彼氏がいるらしい。同僚の一人が千葉の八千代市でサングラス(光が当たると七色に光るやつ。杉山清貴がかけていそうなやつ。)をかけた背の高そうな男のシーマに同乗していたのを見た同僚がいたそうなのだ。

そういえば会社の通路で「教官、、、」と携帯電話で口にするのをみたことがある。

 

ここで木島の恋愛遍歴を振り返らなければならないだろう。

木島は大学1年の時、歌舞伎町の居酒屋「ニューヨーク」で出会った”なっちゃん”という大人の女性が好きだった。住んでいた寮の門限が夜中の12時だった木島は「シンデレラボーイ」とからかわれながらも、親が北九州で薬売りをしながら何とか続けてくれていた仕送りをつぎ込むぐらい熱を入れていた。が、キスにさえたどり着けなかった。

そして大学4年の時には、内定祝いということで先輩に連れて行ってもらった銀座の有数の高級クラブ「パルテノン」の女性を好きになった。そんな高級なクラブの女性と縁がないものと思っていたが、木島が熱烈ファンであるエレファント・カシマシを話題に思いのほかに話がはずんだ。(彼女は実はエレファント・カシマシに興味が一切興味がなかったことを後日知るわけだが・・・) 初デートはエレカシのコンサートだった。コンサートの後の食事も、素朴なお店が好きということで”俺のイタリアン”。彼女は性格も優しく、お財布にも優しい女性だった(むしろ財布に人一倍厳しいことを後日知るわけだが・・・)性癖もバッチリだった。部屋に行くと彼女はいつも新しいコスチュームで迎えてくれた。女医もあった。ボンデージもあった。そういえばあのボンデージ。ビニールの匂いがする安いコスチュームではなく、なぜ高級な皮製にしなかったのか今でも後悔している。そしてオモリも買った。今でもAmazonの”あなたへのおすすめの商品”にオモリが出てくるとなぜ今でも心がうずくんだろうか・・・・

「ドスン」という物音で木島は現実に戻された。ようやく事業会社に到着したようだ。その事業会社は”ミニマム”という名前でフィリピン全土に偏在するネジ工場との交渉や輸出業務を一手に担っている。入口のドアを開けるといきなり

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「味噌蟹 参上!」

いきなりミニマム社のアン社長に呼ばれて、今朝ANAに飛び乗ってさっき着いたとのことだった。

「蟹、今日の夜ぽっかりあいたガニ・・」

アン社長と夕食を共にする予定だったが、急遽キャンセルされてしまったようで

「蟹はこれからホットヨガの後にフィールヤングに行ってニューワールドで休むガニ。部下のお前たちは、今夜は蟹につきあうガニ。 ソンスンを予約しとくガニ。んじゃ」

ホットヨガなどやったら茹で蟹になってしまうのではないか、という木島の心配をよそに味噌蟹部長は横歩きで素早く立ち去るのだった。

「ほんと味噌蟹部長はフットワークが軽いなぁ。まるで磯にいる蟹が穴に隠れる素早さだな。合コンのセッティングもしちゃったし、今夜は味噌蟹部長、俺、木島での参加だな。もう1名追加するように言っとくわ」これまたフットワークの軽い樫田はそれを言い終わるかどうかと同時に今日の相手に電話をするのだった。

樫田によると今日のお相手は元スチュワーデスの尾藤ねりちゃん、大川友達ゑ(ダチエ)さん、そしてウニちゃんという韓国人がお相手してくれることになったらしい。

「さぁ、仕事をちゃっちゃと片づけて、夜のお楽しみと行こうぜ」といいながら、樫田はビル2階の会議室に向かうのだった。