木島は、酔いもあってか、これが現実なのか、夢なのか不思議な感覚に陥った。

『恐れ入りますが、身分証明証を』

どうして俺が?と思いつつも、財布から取り出し、素直に刑事に渡した。

『あの、お連れさんもお願いします』と、落ち着いた声で、年寄りの刑事が催促した。

 

気がつくと、今日会ったばかりの遥香は、木島の腕に手を回していた。

彼女は、何も言わず、派手な財布から、運転免許証のようなものを取り出した。

年寄り刑事は、彼女のI.D.を小さな懐中電灯で照らした。

『山崎 綾 さんね』と、呟いた。

ん?綾?と思いつつも 『あー、遥香源氏名か、だよな、綾ちゃんが本名なんだ』と、木島の理解は早かった。

『ありがとうございます』と、刑事は、遥香にI.D.を渡し返した。

受け取った遥香の華奢な指が震えていたのを、木島は見逃さなかった。

 

『木島さん、はい あなたの』と、返されたI.Dは、地元のスポーツクラブの会員証だった。

『行こっ』遥香が、腕を強く引っ張った。『お、お 行こう』と、木島は刑事に会釈して二人はその場を去った。

薄暗く、細いトミジャズのカウンターに、二人は並んで座り、木島はさっきの出来事はなんだったんだろうねと、話かけようとしたら、『木島さんって、彼女いるんですか?』と、にっこりいきなり聞いてきた。

『彼女? まだいない、、、き、に、な。。。』さっき、入江に告白し返事を待たされている身の木島は、はっきりと答えることはできなかった。

 

『じゃあ、遥香を彼女にしてください』入江にクリソツな遥香に告白され、これもありなのか? 一次会からの今までの出来事が濃厚すぎて、木島の頭は、ショートした。

 

ウィスキーを何杯飲んだか記憶がないまま、支払いを済ませて店を後にした。

店からタクシーを拾うため大通りに向かった。

『木島さん、今日は楽しかったです、またお店に来てくださいね』と、遥香は言い残し、足早にタクシーを止め、去って行った。

立ち去った彼女に手を振った後、背後に何かの視線を感じた。

 

さっき止められた二人の刑事が、遠くから木島の様子を見ていた。