ラルフィーはランチ時間が過ぎていたものの、それでもテーブルは67割は埋まっていた。

「樫田さん、それよりちょっといいですか?」コロナビールをノドに流しこみながら木島が尋ねた。ライムの酸味がノドに心地よい。

「車の中で樫田さんが話題にした、、」

「入江塔のことだろ。だからあれは辞めとけよ」樫田は白ワインで赤焼けした顔をグイッと木島に向けた。

「あんなののどこがいいんだよ。俺には全然分からんな」

確かに木島と樫田の趣味は全く被らないようだ。木島はどちらかといえば正統派の美人顔が好きだが、樫田はよくいえばオリジナリティのある顔、悪く言えば所謂ブス専として合コン業界では有名だったと木嶋も社内の噂で耳にしていた。

「違うんです、樫田さん、正直俺、彼女に一目惚れしてしまったんですよ」

「あのなあ、だからお前はダメなんだよ。いいか、木島、お前も一端の商社マンになったんだから教えてやる。世の中ってのはリスクとリターンで成り立ってんだ。低いリスクには低いリターン、高いリスクには高いリターンってやつだ。お前はその辺が全然分かってないんだよ」

「その話と入江さんを好きになるって何が関係あるんですか」

「だから入江なんて女は低リターンなのに、高いリスクしかないだろ。なんか杉山清貴みたいな訳のわからん男と付き合ってるって噂だし」

樫田はそう言うとフラッと立ち上がった。

「お前にはネリでいいだろうが、ネリで。今晩最後なんだからちゃんと頑張れよ。俺、ちょっとトイレな」

フラフラと千鳥足でトイレに向かう樫田を見送りながら、木島はこのフィリピンの灼熱の太陽のせいか、出張の疲れが出たせいか少し熱っぽさを感じていた。