■
酔いとボーリングの疲れを冷ます時間もなく、ネリの家に到着した。
テーブルには、すでに美味しそうなメキシカン料理が用意されていた。
友達ゑが、すかさず 『じゃじゃーん』と、ごっついテキーラのボトルを登場させた。
『木島さんのマニラ出張ラストナイトだし、明日朝、飛行機乗って帰るだけでしょ?』と、友達ゑ。
すでに、ラルフィーで4本ワインを空け、ナパームで飲み、ボーリングで汗を流した樫田と木島は、この後、このテキーラがどんな効果を発揮するか? 心配より、期待が上回った。
ネリは、あまり酒に強くないのだが、この夜に限っては、友達ゑと変わらないペースで、テキーラショットを流し込む。
『一体感、一体感』
よくわからないノリノリの掛け声と共に、一気に、ボトルが空になった。
『まだ、飲めるっしょ』と、友達ゑは、キッチンへ向かい、もう一本持ってきた。
『あ、そうだ Twisterやろうよ チーム戦、レベンジする、負けたらショット 』ネリが、提案した。
長年、ヨガで鍛えたネリは、柔軟性には自信があった。ボーリングでは負けてしまった木島、ネリチームだが、樫田の酔っ払い具合を見たら、勝てそうな気がした。
2本目のボトルも空きそうになったが、なかなか 勝負がつかず 、樫田も木島もすでに色の識別すら、危うい状態になっていた。
ネリと木島の順番が回ってきた。友達ゑが仕切る。
『右手 あか 左足 あか 左手。。。』
ネリと木島が重なり合うように、際どい体位で止まり、お互いの心臓がバクつき最終戦となった。
『 ねえ、ねえ、起きてよーーー、ヒロ 大丈夫?早く起きて、ねーーー』
ネリの優しい声と、酷い頭痛で目覚めた。朝になっていた。樫田も友達ゑもいない。
『もうすぐ10時だよ、フライト何時?』
木島は、震えた。
さ
■
「さて、そろそろ行くか・・・」ワイン4本で露払いを完了させた樫田が言った。今日は昨晩の流れでねりの家でのホームパーティーに招待されていた二人だった。
味噌蟹部長は「今日俺ベッケンバウアー」とギャクにもなっていないことを言いながら昼前に会社を出て行ったのだが、「まさかオンナじゃないでしょうねぇ」という樫田の冗談に「俺、そういうのはマニラ湾に沈めてきたから」、とこれまたギャグにもなっていない返事を返すのだった。
ラルフィーを二人が出ると、いきなり樫田が
「隠れろ!!」
木島が訳が分からず車の陰に隠れると、「あそこを見てみろよ」
ラルフィーからオールドワールドホテルのラウンジを見る事ができるが、そこに味噌蟹部長の姿があった。誰かと談笑している。目を凝らしてみてみると、それはどこかで樫田が目にしたことがある女性。
「・・・・・・・あれは脇江ちゃんだ・・・・・・・・」
脇江はマニラのカジノ「オケラ・マニラ」で働く妙齢の女性だ。
味噌蟹がかって口にしていたソウルメイトは日本にいるはずだが・・・と樫田がつぶやくと木島が「あのポジショニングはまずいですね」
味噌蟹と脇江は向かい合ってグラスを傾けていた。味噌蟹は得意とする接近戦に持ち込もうとするのだが、いかんせん横の動きは得意だが縦の動きとなるとからっきしだ。
縦が弱い味噌蟹が近づくためには隣の椅子からぐるりとまわって脇江の隣のポジショニングを確保するしかないのだが、ぐるりとまわるきっかけをつかめずに2つの隣の席を言ったり来たりするだけなのであった・・・・部下として何とかしたい樫田であったが、そろそろ出発の時間だ。「時間切れだが、行こうか」と、樫田は木島に声をかけるのだった。
1時間のドライブで軽い酔いを覚ました二人は、まずアラバンのナパームに向かった。ナパームはゴルフ場は併設していないものの、プールやレストランがあるカントリークラブだ。
「カンパーイ!!」
プールで寛いでいた友達ゑとネリに合流し、早速パーティーを開始させる4人だった。
「お! ここにボーリング場あるじゃん」樫田が目ざとく見つけると、「やろーやろー 昔すごく流行ったんだよねー」と昭和の第一次ボーリングブームを知るネリは子供のように目を輝かせた。
第一次ブームを知らない樫田であるが、こういった時代ネタを合わせないとネリの琴線に触れること知っていたので「そうそう! すごく流行った!」とネリに合わせるのだった。
パッコーン!! ナイスカン!!
樫田・友達ゑチームは軽快に得点を重ねた。一方、木島・ネリチームの得点は伸びない。木島が強烈に足を引っ張っているのであった。ボーリングは重い球をただ真っ直ぐ投げるだけの単純なスポーツだ。人がいつのまにか歩けるようになるのと同様に、ボーリングの球は真っ直ぐなげられるものだが、木島のボールは常に両サイドの溝に落ちるのであった。挙句の果てに「痛っつ!」。ボーリングで手首を負傷する始末だった。
もっとちゃんとしてよねー
とネリは木島のだらしがない姿を見て声をかけるのだが、樫田はその瞳にキラリと鋭い光が宿るのを見逃さなかった。どうやら木島の情けないボーリング姿がネリのS性を目覚めさせたようだ。
ボーリングを楽しく終えた4人はナパームを離れて、軽いとは言えない酔いを覚えながら、ネリの家に向かうのであった。
た
■
ラルフィーはランチ時間が過ぎていたものの、それでもテーブルは6〜7割は埋まっていた。
「樫田さん、それよりちょっといいですか?」コロナビールをノドに流しこみながら木島が尋ねた。ライムの酸味がノドに心地よい。
「車の中で樫田さんが話題にした、、」
「入江塔のことだろ。だからあれは辞めとけよ」樫田は白ワインで赤焼けした顔をグイッと木島に向けた。
「あんなののどこがいいんだよ。俺には全然分からんな」
確かに木島と樫田の趣味は全く被らないようだ。木島はどちらかといえば正統派の美人顔が好きだが、樫田はよくいえばオリジナリティのある顔、悪く言えば所謂ブス専として合コン業界では有名だったと木嶋も社内の噂で耳にしていた。
「違うんです、樫田さん、正直俺、彼女に一目惚れしてしまったんですよ」
「あのなあ、だからお前はダメなんだよ。いいか、木島、お前も一端の商社マンになったんだから教えてやる。世の中ってのはリスクとリターンで成り立ってんだ。低いリスクには低いリターン、高いリスクには高いリターンってやつだ。お前はその辺が全然分かってないんだよ」
「その話と入江さんを好きになるって何が関係あるんですか」
「だから入江なんて女は低リターンなのに、高いリスクしかないだろ。なんか杉山清貴みたいな訳のわからん男と付き合ってるって噂だし」
樫田はそう言うとフラッと立ち上がった。
「お前にはネリでいいだろうが、ネリで。今晩最後なんだからちゃんと頑張れよ。俺、ちょっとトイレな」
フラフラと千鳥足でトイレに向かう樫田を見送りながら、木島はこのフィリピンの灼熱の太陽のせいか、出張の疲れが出たせいか少し熱っぽさを感じていた。
ひ
■
数日後… 最初の兆候が表れたのは清川だった。筋肉痛のようにだるく微熱が下がらない。マニラも世界のトレンドに漏れずコロナが猛威を振るい出していた。マニラ商工会の会頭を務める清川は本来、外出自粛を呼びかけるべき立場であったが3末に本帰国が決まっていた為、送別会と称する飲み会三昧の日々を送っていた。他の東南アジアの国に比べ増加が緩やかだったフィリピンも3月半ばを過ぎた辺りから感染者が爆発的に増え、日本大使館も日本人感染者の会社名を公表することになった。マニラ経済界の重鎮清川は感染の可能性がバレる事を恐れ、震えながら病床に伏せる日々が続いた。「そういえば、秘密でウニちゃん達と濃厚接触したな。でも、体調悪化は黙っておこう。」経済界でのサバイバル術にたけ、清濁合わせ飲む清川は秘密で無邪気に戯れた木島達の健康不安を黙殺する事にした。
つ
■
ウニちゃんを、めがけて一気に飛び込んだその席には、すでに日沈み電設の清川が、しつこいくらいのにゃん語で、話しかけていた。
「 ウニちゃーん、次 ウニちゃんのシッペの番だってー、味噌蟹さんとウニちゃんで、磯 対決しちゃう?』と、ケタケタ笑いながら、ねりが言った。
「あ。ウニちゃん、まだ水着じゃないじゃーん、清川さん、ビギニに着替えさせるから、ちょっとにゃんにゃん 中止〜〜〜〜』と、だちえに仕切られ、ウニちゃんは、部屋を出て行った。
『お待たせーーーーーーーー』
部屋中が一瞬にして、静まりかえった。。。
蟹サハムニダ〜〜〜
味噌蟹部長が、泡を吹いて倒れ シッペ対決は、GAME OVERとなった。
さ